当社グループは、150 年を超える歴史において、「多様で優れた人財」と長年培ってきた「確かな技術力」で新たな価値を創造してきました。その一方で近年、AIなどのデジタル技術の進化は著しく、これらを活用することで、より柔軟で持続可能な価値を創造することが可能となってきています。
現在の建設業界及び当社グループは、少子高齢化や時間外労働の上限規制への対応に向けた生産性向上、品質・安全・環境に対する社会的な要請の高まりなど、様々な課題に直面しています。
これらの課題に対応するためにも、デジタル技術を活用して、ビジネスモデルや業務プロセス、組織文化を変革し、新たな価値を創造するDXを推進する必要があります。

私たちが描くDXのビジョンは、当社グループの事業に携わるすべての人々が、立場や役割を越えて、デジタルでつながりながら「ものづくり」に挑み、当社グループにしか実現できない新しい価値を創造し、人々が豊かで文化的に暮らせるレジリエントな社会づくりに貢献することです。

このビジョンを象徴する円環図は、2030年を見据えたコアテクノロジーと位置付けたデジタルツイン・AI・リモートと、データをシームレスに連携し、データ利活用を促進する統合プラットフォームを中心に配置しています。これらを起点に、デジタルでつながる環を「建設ライフサイクル全体にわたる各事業セグメント」、「建設周辺領域の新規事業」へ拡げ、お客様やパートナー、そして社会へ新しい価値を提供することでDXビジョンを実現するという想いを込めています。

その実現には段階的なステップが必要です。

第一のステップは「社内プロセスをつなぐ」ことです。
設計、施工から維持管理、リニューアルといった各業務プロセスをデジタルでつなぎ、情報を一元管理・共有することで、業務の効率化・高度化と品質向上を図ります。
データの利活用が重要となるため、紙中心の文化から脱却し、データを「正」とする働き方への転換を進めています。

第二のステップは「建設業界をつなぐ」ことです。
当社グループの建築・土木現場におけるDX標準基盤「T-BasisX®」や「T-iDigital® Field」を中心に、お客様やパートナーとリアルタイムで情報を連携・共有し、コラボレーションしていくことで、サプライチェーン全体での業務プロセスの最適化を図り、生産システムの変革を推進していきます。

そして、最後のステップが「社会をつなぐ」ことです。
建物やインフラをデジタルでつなげることで、スマートビル・スマートシティや地域エネルギー管理・環境対応などの新たな価値を創造し、社会課題の解決に貢献します。

当社グループのDXは、統合プラットフォーム「Taisei-DaaS」の運用を開始し、デジタルツイン・AI・リモートといった基盤技術の整備を進めるなど、着実に「実装フェーズ」へと移行しつつあります。
現在、特に注力していることは、「生産システムの変革」と「デジタル人財の育成」です。

生産システムの分野では、BIM/CIM、IoT、AI、ロボットといった先端技術を現場と高度に連携させていくことで、安全性・生産性・品質を大きく向上させ、将来の省人化・無人化の基盤づくりにもつなげています。また、AIの活用にも積極的に取り組んでいます。知見や技術の伝承を支援する「建築施工技術探索システム」を開発しましたが、他にもAIを有効に活用できる領域は多くあります。AIを積極的に活用し、当社グループの技術とデジタルを融合させた新たな働き方を現場に実装していきます。
そして、これらの変革を支える鍵となるのが「デジタル人財」です。
2023年に開講した全社デジタル教育機関「DXアカデミー」では、社員一人ひとりのスキルや役割に応じた３段階の育成プログラムを用意し、変革を担う「デジタル人財」の育成に力を入れています。また、パートナーやグループ会社にも展開することで、サプライチェーン全体の人財育成を図っています。

私はDXを単なるデジタル化ではなく、未来の建設業のあり方を問い直す取り組みだと考えています。そのためには、社員一人ひとりが変革の当事者としての意識を持ち、会社全体で一体感を持って前進することが不可欠です。だからこそ、私自身が旗を振り、現場の声に耳を傾け、共に汗をかきながら、この大きな挑戦をリードしていきます。
未来を創るのは技術そのものではなく、人の情熱とチームの力です。私はその可能性を信じて、DXを通じた価値創造に全力で取り組んでまいります。